風が、吹いた

「私はあなたを責めにきたんじゃないの。ただ、あなたはずっと守られてきていたことを知ってほしいの。私が嫉妬するくらいにね。」




放心状態でいる私に、彼女は感情的にならないよう敢えてゆっくりと物を言っているようだ。




「孝一さんは知っていた筈よ。あなたに近づけば近づくほど、あなたを危険に晒してしまうこと。現に高校の頃からあなたはずっと見張られてきている。そして今回嘉納側で動いた彼に対しての制裁が与えられた。このまま嘉納側につくなら、大事なものを失うことになるぞって。恐らくあなたを消す位の気持ちもあったと思うわ。」




志井名という人間はそういう男よ、と付け足すように、呟く。




「だけど」




一旦言葉を切って、こちらに顔を向けたまま、後ろ手で玄関のノブを握った。




「このままじゃ、孝一さんはずっと、両方に挟まれたまま、苦しむ。」



苦しそうに歪めた顔で、一度唇をきゅっと結んでから、




「お願い。彼を助けてあげて。彼の傍にいてあげて。あの人にはあなたが必要なのよ。」




呟くように言った。




「…どうして、私に?」




彼女は彼のことを愛しているのに。




「…どんなに好きでも私じゃ無理だということと…」