風が、吹いた


私は、ただただ、首を小さく横に振る。



がらんとした部屋に、森明日香の声はよく響いた。




「おかしいって考えなかったの?どうして孝一さんが刺されたのか。どうして、あの場所に孝一さんが居たのか。」




咎めるように聴こえる森明日香の声に、耳を塞ぎたい衝動に駆られながら、どうにか堪える。




「この新聞だって…投函されていたんでしょ?志井名からの警告よ。お前は関係ない、もう近づくなってね。これからも狙われるんじゃない?」




ふーっと大きく息を吐いて、私から目を離す。




「あなたのことを私に教えたのも、うちと繋がっていた志井名の人間よ。今回のことで、うちが窮地に追い込まれた時も、発破をかけてきた。でも私はあの人たちの思い通りに動いてやるほど馬鹿じゃないわ……だけど、結果的に孝一さんはあなたを守り、生と死の境目に居る。」




憂いを帯びたその目が、彼女が本気で彼を愛していたことを物語っている。