風が、吹いた


バサっと手に持っていた新聞が、床に落ちた。




「あなたの存在は、志井名にとって…いや、孝一さんにとって…邪魔なのよ」




首を振る自分に、森明日香は畳み掛けるように言う。




「表だってはいないけれど、嘉納を潰したい志井名は孫である彼が欲しい。嘉納は嘉納で志井名を潰して息子が欲しい。」




彼女は落ちた新聞を屈んで拾う。




「この勝負は跡取りを奪った方が勝ち。財閥の存続が掛かっているの。それはつまり、孝一さんが大事にされるってことじゃなくて、孝一さんが少しでも弱さを見せたら徹底的にそこを叩かれて、脅しの道具にされる。要は孝一さんの弱味を握ったもの勝ちってことよ。」




新聞を軽く叩いて、もう一度彼女は立ち上がった。




「あなたは孝一さんの唯一最大の弱味、なのよ。」