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ピンポーン
引越しの時のダンボールは、そのまま、ガムテープすら剥がされないである。
来た時となんら変わらず、生活感ゼロのその部屋の真ん中で、新聞を広げて何度も何度も読み返していると、
玄関のチャイムが来客を知らせた。
聞こえないかのように、記事を目で追う。
ピンポンピンポン
そこで、初めて音に気づいて、はっと腕時計に目をやった。
朝5時。
こんな時間に誰だろう。
この記事を見た、吉井かもしれない。
あれから正月に入り、誰とも会っていないし、携帯も切ったままだ。
ただ、この場所は…
この新しい家は、まだ誰にも教えていない筈だが。
「千晶…」
考え巡らせていると、どこかで聞いた声が、遠慮がちに、玄関先で私の名前を呼んだ。


