風が、吹いた




そんな俺を射るような眼差しで、浅尾が睨む。




「…結婚、するって、報道されてましたけど。」




「報道されてただけだろ」



しれっとした態度で答える。




「っ、倉本が知ったら、とか考えなかったのかよ!?」




ぶっきらぼうな口調で、浅尾が憤りを顕にした。




あの時と、同じだ。




8年前の、映像が頭を過ぎる。




HRの始まりを告げる鐘の音。




誰もいない昇降口。




―倉本はどうなるんですか!?




目の前の男の、真っ直ぐな言葉とぶつけられる感情に、自分の中で、やるせなさが募った。




今もまた。







ふっ、と自嘲気味な笑いが漏れた。




「千晶は…元気?」




その反応が気に食わなかったのかー



「俺がわかると思うんですか?」




侮るように、挑発するように訊き返してくる。




「俺が泣かしたら…お前がもらうって言ってただろ。」




思い出したように、浅尾が睨む目を一瞬伏せた。




「…もらったって言ったら、先輩どーするんですか」



「そりゃ、良かったなって、言うよ」




こんな俺とじゃなく。



目の前の真っ直ぐな男の方が、千晶に似合っている。


憂いを帯びるのは仕方ないが、笑って祝福できる。