風が、吹いた

暫くすると、俺を引っ張っていた人間がぴたっと動きを止めた。


つんのめりそうになった所で、背中をトンと押される。


「!?」


予想していた衝撃とは違って、やや固めだが、ソファみたいな感触が体に響く。


続いてバタン、とドアが閉まる音。


そして、前方でドアが開いて誰かが入り、また閉まる音がした。


がばっと起き上がると、被せられていたモッズコートがハラリと落ちる。


―車?


と、男。


俺は後部座席から、運転席を見る。


「お前…もしかして…」


振り返りながら、俺を見た男はにやりと笑った。


「お久しぶりですね、先輩。」






ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、目の前に拳が飛んでくる。



パシッ



乾いた音と共に既の所で、掌でそれを受けた。



チッという舌打ちがする。



「あーあ、殴らせる位、させてくださいよ」




「浅尾…お前どうして…?」




驚きの余り、二の句が継げない俺に。



「どうしてかな」




黒髪の後輩は首を傾げた。