風が、吹いた





あっという間に静寂が支配した空間に、ぽつり、と沢木が呟く。




「…お疲れ様でした…」




ここに来てから、一番近くで俺を見ていた沢木は、異常な家族間のやり取りに、寒気さえ感じている筈だ。



「風に、当たってくる」




外の、空気を吸いたい。




俺が今、求めていることはそれだけだった。




すぐに沢木が俺のコートを持って、羽織らせようとするが、それを手で制する。



「いい」




付いてこようとするボディガードもSPも断って、部屋を出た。




「身辺、どうかお気をつけてください」




後ろから沢木の心配そうな声が聴こえてくる。



振り返らないまま、手を軽く上げて、理解していることを伝えた。