「やだなぁ、私と貴方の関係じゃありませんか。勿論、きっと貴方はここに来るだろうと思ってお待ちしていましたよ。」
白々しい程、爽やかで柔らかい笑みを湛え、嘉納猛が部屋の隅、ちょうど扉の影から腕組みをしたまま、顔を出した。
「こんのっ…卑怯者めっ!ワシが情けを掛けてやったにも関わらずっ!!!」
ぎりぎりと歯噛みしながら、怒りで真っ赤にさせた顔を、かつての息子に向けた。
そんな一時の父を、蔑むかのように一瞥して猛は言う。
「情け?何のことですか?私が貴方からいただいたものといえば、裏切りのみですが?」
「えぇぃ、黙れ黙れ黙れっ!!!よくもそんな口がきけたな!このままで済むと思うなよ!!!!!」
ふぅふぅと、自分の怒りに耐えられない老人の身体は、己が思っているよりも、大分脆くなっている筈だ。
「ふふ。お待ちしていますよ。ただ、その前に、暫く休んだ方がいいですよ。もう、ご老体なんですから、ご自愛くださらないと。そうだ、これを機に退かれては?」
いつの間にか到着していた来客に気づくと、猛は更に笑顔を増した。


