風が、吹いた




「なぁ、倉本」




ふいに名前を呼ばれた。



アンケートに没頭していたせいで、一瞬反応が遅れたが、ぱっと顔をあげる。




「…ん?」




浅尾は自分の席のすぐ側にある壁にもたれかかって、私のことを真っ直ぐに見ていた。



確かに浅尾が声を掛けてきたはずなのに、中々次の言葉を発しないせいで、時間が止まったかのように感じる。




「浅尾?」




じれったくなって、ついに名前を呼んだ。



浅尾はそれでもしばらくじっと目を合わせていたが、おもむろに私の机の上を指差して。




「それ、手伝ってやろうか?」




と言った。