都内有数の高級ホテルのスイート。
挨拶をしに近づいてくるフロントの人間を手で制し、外でSPを待たせ、部屋へと向かう。
見慣れた数字を、コン、とノックすると、すぐにドアが開いた。
「ふふ、早かったのね?…入って」
森明日香が妖しく微笑むと、腕を絡ませて中へと誘(いざな)う。
バタンと、後ろで扉が閉まる音がした。
薄暗い部屋で、彼女は百合の香りを振り撒きながら、背中に手を回して体を摺り寄せてくる。
「会いたかったわ…」
そう、呟くと、胸に顔をうずめた。
「ねえ、返事を聞かせてくれる、約束でしょう?」
甘えるように出された声と絡む腕。
冷めた目で、それを見てから、自分にしがみつくその腕を、そっと外させる。
「…?」
彼女が、あれ、と首を傾げた。
強制的に開けられた距離を、不服そうに見つめている。
「なんの、返事だったかな。」
にこやかに微笑んで尋ねた途端、目の前の彼女の顔色が変わった。


