風が、吹いた


自己嫌悪が渦となって、うんざりしていると、携帯が鳴る。




表示を確認して、出た。




「はい」




『あ、もしもしー。明日香です。孝一さん、今夜、会えます?』




纏わりつくような話し方に、彼女の百合の香りが部屋中に漂っているような錯覚に襲われる。




「ああ。」




『ふふ。嬉しいです。じゃ、いつもの所でお待ちしています。』




「わかった、すぐに行く。」




頭から、先程までの感傷的な想いを振り払う。



コートを羽織り、ドアを開けた。




「ちょっと出てくる。今日は帰らない。」




出た所で、デスクワークをしている沢木に声を掛けた。




「畏まりました。SPを配置致します。車を裏口に回します。お気をつけて」




歩きながら軽く頷いてみせて、エレベーターに乗り込んだ。