風が、吹いた




「ごめん。忘れ物取りに来て…」




教室の入り口から、驚いた顔でこちらを見ていたのは、先ほどまで整理していた名簿の1番上のクラスメイト。



浅尾郁斗(あさお いくと)。




「…あ、や、なんか、こっちこそ、ごめん。。」




私は、腕を伸ばした姿勢をゆるゆると改め、前に向き直る。



気恥ずかしさから、さっきよりアンケートに集中した。




浅尾が、ガサガサと、机の中から何かを出す音が響く。




浅尾の席は私と同じ一番後ろの、一番廊下側。



真っ黒な髪で背が高くて、それから…近寄りがたい雰囲気を纏っている。


私の中での浅尾の情報はこのくらいだ。