「浅尾!」 咄嗟に名前を呼ぶが、彼は振り返らないまま、遠ざかっていく。 行かないで、と思うのに。 追いかけて、止めなくちゃと思うのに。 何故か、足が動かなかった。 抱き締められた瞬間に囁かれた言葉が、耳にじんじんと響く。 『思い出して』 私は一体、どこでボタンを掛け違えたんだろう。 何を失くしてしまったんだろう。