研究所から駅までは、少し歩く。
研究所近くのカフェからも同様に。
加賀美という女が、実験で培養しているなんだかがどうとかで、こんな辺鄙(へんぴ)な所で会合になったのだが。
すぐ側に開けた都市があると言うのに、どうして一歩入ったというだけで、こんなにも利便性に欠ける田舎になってしまうのか。
というか、さっきのカフェもカフェと呼べるのか?あんな所じゃ商売上がったりだろう。絶対研究所の人間しか使ってないと思う。
心の中で悪態を吐きながら、結局歩くことにする。
ふと、視線を携帯から前方に移した浅尾の瞳が、少し寂しげに、そして切なく、揺れた。
と同時に、彼は携帯の通話ボタンを押す。
3コールしてすぐに、慌てたような声が向こう側から聞こえてくる。
「あさ…あ、あさお!!!」
「よぉ。ごめんな、ずっと連絡しなくて」
「いいよいいよ!全然…。私も謝んなきゃってずっと思ってて…」
「今から、会える?」
「え、今からって、えっと…夜、とか?」
「ううん、違う。今」
携帯から、耳を放した。


