風が、吹いた




________________________


―タクシーを呼ぶかな。




例のごとく、吉井に昼に抜けてこいと呼び出されたのは良いが、またしても何も口に入れないまま出てきてしまい、昼飯なしで過ごすことになりそうだ。



自分の短気な性格が恨めしい。




会社に戻る手段を思案しながら、浅尾は携帯を開いた。



不在着信を見て、溜め息を落とす。




―そろそろ、はっきりしなきゃな。




椎名孝一の正体と、置かれている状況を知った今、彼が倉本のことを、あの頃どんなふうに想っていたかが伺える。




そして、どんな気持ちで、置いて行ったか。




だから、なおさら。




あの人は、忘れてなんか、いないだろう。