風が、吹いた


「会長からの御達しがありましてねぇ。孝一様の進路状況を調べてこい、と。ま、つまりは気を変えたりなんてことはしていないでしょうねぇということなんですよねぇ。」




ニタニタと笑うのは、この男の癖なのだが、性格の悪さが滲み出ているような気がする。




「学校に行って調べたところ、安心致しましたけれど…ご本人様の口から心変わりなんてことはないときちんとお聞きしようと思っていたわけなんですよぉねぇ。夏休みも一度も帰られなかったじゃありませんかぁ」




「接触を持つな。それが俺からの条件だ。用があればこっちから行くことになっていた筈だ。とっとと失せろ」




後ろに立っている2人のSPが直立不動の姿勢を保っている。




「おおこわぁ。この神林、その様に睨まれる覚えはございません。ただ坊ちゃんの…」




「聞こえなかったか?今すぐに俺の前から消えないと、跡継ぎは居ないと思え。」




神林は黙り込み、白い手袋をきゅっと嵌めなおすと、一礼して運転手の開けたドアから車に乗り込んだ。