風が、吹いた


結局、彼女はずっと、その場所で、誰に話しかけられても、反応すらすることなく。




ただ、一点。宙だけを、どこかじっと、見ていて。




早くこの時間が終わればいいのに、と耐えているように見えた。




そして、その希望通り、この会が終わると同時に、ひとりで、体育館を出て行った。



自分から、周囲を遠ざけているような、その姿が。



似ているような気がした。


俺自身と。







「人の楽しみを、椎名に邪魔された気がする…」




ぶつくさと隣で腐っている橋本を置いて、思わず彼女の後ろ姿を追いかけた。




「椎名先輩!」




…なんなんだよ。




体育館の外に出た所で、前方から来た子に呼び止められて、立ち止まらざるを得ない。




「あの…」




もごもごと、何かを言おうとしているのはわかる。が。




「邪魔」




通路に立ちふさがるように立っているそれを押しのけて、彼女の姿を再び捜す。



「ちくしょ…」




通路には、既に沢山の人間が溢れかえっていて、見つけ出すことは不可能だった。