耳から手を放して、橋本の視線を追う。
「倉本千晶だ」
一人で。
体育館の隅。
ぽつん、とつまらなさそうに壁に寄りかかっている1年生。
「あ。」
それは紛れもなく、ここ数日、俺を落ち着かせなくさせている原因の女の子で。
桜の木の下で、眠っていた少女だった。
「椎名。あれだよ。こないだ言ってた1年のトップの子!間違いねぇ!際立って美人だ」
えへら、とだらしなく笑いながら、見惚れる橋本。
「お!?」
「見るな」
思わず、橋本の頭ごと腕で抱えるように絞めた。
「く、くるし…」
ギブギブ、という橋本を無視して、目隠しをしたまま、俺は彼女を見つめた。
…なんていうか。
どーでもいいって顔、してるんだな。


