風が、吹いた




「今日はバイトだよね?」



さっきよりもすぐ近くから、先輩の声が降ってくる。



「あ…はい。そうなんですけど……ちょっと遅くなりそうなんです。」




ーそうだった。佐伯さんに連絡しないと。



思い出して、ブレザーのポケットから携帯を取り出した。


佐伯さんの電話番号を探す。操作する携帯の向こうには、先輩の靴が見える。サッカーをしていた時のまま、制服のズボンを膝までたくしあげているから、見ているこっちが寒くなる。



というか―




「近いような気がするんですけど…」




おずおずと言ってみた。




「あの・・・何か他に用がなかったら、電話を掛けたいのですが・・・?」




数少ない私の電話帳からはもうとっくに佐伯さんが見つかっている。