風が、吹いた









17時10分前。




「じゃ、車お願いね。」




彼女はお嬢様らしく、ポーターににこりと微笑むと、車のキーを手渡した。




「ほら、倉本さん!早く早く」




私はというと。



会場のホテルの入り口。着慣れない服、履き慣れない靴に悪戦苦闘していた。



丈の短いベビーピンクのシフォンワンピ。同色のピンヒール。ウサギだかなんだかの肌触りの良い白いボレロ。



その上、髪はアップで、メイクも専門の人がしてくれてある。




「…ありえない…」




私なら、絶対こんな服着ない、買わない。






あれから加賀美は自分の行きつけだかなんだか知らないが、高そうな店という店を回り、言葉を失った私にどんどんと服を選び、どんどんと装飾を施して、今に至っている。



が。



私は絶対に似合わないと思う。



まず、こんな明るいふわふわした色、買ったことない。




「私、用事思い出したから、かえ…」




言いかけた途中で、がし、と加賀美に腕を掴まれた。



「行きましょう?」




満面の笑みをたたえる彼女に、背筋が寒くなる。




加賀美はきっと、吉井と同類だと思う。





絶対敵にはしたくない。