風が、吹いた


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―土曜日。16時少し前。



うちのアパートの前に、不釣合いな白いスポーツカー。



狭い道なのに、よく入れたな、と半分呆れつつ、眺めた。




「倉本さん、早く乗ってくださいよー」




加賀美が運転席から私を呼んだ。




「…これ、こんなにでかいのに、二人乗りなの?」




助手席に乗り込みながら、思わず訊かずにはいられなかった。




「そーですよ。エンジン後ろにのってるんですよ」




言っている意味がよくわからない。




「んー、思ったとおりだなぁ…」




車を走らせながら(しかもかなり怖い運転で)加賀美が横目で私を見て呟く。




「な、なにが?」




思わずびくっとしながら、訊くと、




「スーツで来ると思ったんですよね、倉本さん…」




残念そうに首を振った。




「悪かったわね…。うちにはドレスアップできるようなものは何一つないのよ。」




でも別に私のパーティーなわけじゃないし、目立たないだろうからこれでいっか、と思ったのだが。




黒のスーツでは、そんなにいけないだろうか。