「倉本は屋上に棲む妖怪か。」
屋上から研究室を繋ぐ階段を下りていると、廊下を歩く東海林に見つかった。
「…いいじゃないですか。」
横に並んで実験室へと向かう途中、ずっと気になっていた質問をぶつけてみることにした。
「東海林さん、こないだ言ってた条件ですけど」
一瞬東海林が何を言っているのかわからない、という顔をしたが、すぐに合点したようで。
「あぁ。」
と頷いた。
「…シンデレラは王子がいなくても幸せになれるんですよね。どうして二度と会ってはいけないんですか」
「お前、そんなこともわかんねぇの?」
心底呆れたような声に、むっとする。
実験室の入り口の前で、東海林は顔だけをこっちに向けて。
「シンデレラにとって、王子は運命の相手だからだ。」
と大真面目に言った。
「……」
「…自分で訊いておきながら、フツー笑う?」
「いや、すみません」
自分でも失礼だとは思うが、東海林が運命なんて言うから、可笑しい。
不機嫌な表情で、東海林は少しかがむと、私に小さく耳打ちして、実験室へと入った。
その言葉を聞いた私は、すぐに笑いを消して、暫く呆然と立ち尽くした。


