《で、どうかされたんですか?携帯に電話くれれば良かったのに》
「うん、そう思ったんだけどね。加賀美、絶対携帯に気づかないと思って」
《あぁ、確かに。》
携帯を持つのとは反対の手にある、二通の招待状に目を落とす。
「森さんから、招待状が届いてね。加賀美の分もあるんだけど…結構急で。今週の土曜日午後17時からだって。行く?」
電話の向こうから、うーんと唸る声が聞こえた。
《本当に急ですねぇ。研究所の休み取ってた人たちが皆戻ってきたんで、大丈夫だとは思うんですけど。滞っていたものも結構ありまして。》
「無理しないでいいよ。私も加賀美が行かないなら、断るし」
《…いや》
片耳と肩の間に携帯を挟んで封筒の中に招待状を仕舞おうとする手を、加賀美の真剣な声によって、思わず止めた。
《行きましょう。調整してみます。夕方からなら、なんとかなるでしょう》
「そう?大丈夫なの?」
《はい。まぁ、森グループなんて、加賀美が呼ばれてやるほどのものじゃないと思ってますけど》
毒舌は今日も健在だ。
「珍しいね。加賀美ってこういうの、あんまり好きじゃないと思ってたけど」
思ったことを、口に出して言えば、加賀美は一瞬沈黙する。
《…普段は出ないんですけどね。ちょっと気になることがありまして》
「…気になること?」
《こないだの話です。でも、まぁ、憶測で物を言うのは、あまり好きではないので、確実になったら教えます。》
腑に落ちないまま、相槌だけ打って、仕事の話を少しした後、電話を切った。


