風が、吹いた










「…知らない」




私は弁当と会話しているのか、と思うほど、吉井の視線から逃げながら呟いた。



「えーほんとに知らないの?」




あんな有名なのに、とそんな無愛想な私を気にも留めずに会話を無理やり続ける吉井。




「成績優秀で、スポーツもできて、あの容姿だから、どの学年からもモテモテなのに。」




その情報の半分は、今現在事実だと確認している。



そういえば、靴箱でも女子から話しかけられていたみたいだったなぁ、と今更ながら思い出した。




「じゃぁ、違うんだねぇ。くらもっちゃんは、一体誰を見ていたのかなぁ…」




気になるなぁ、と一向に諦めない吉井。



私は我慢出来ずに、無言で弁当箱に蓋をして、席を立つ。




「くらもっちゃん、どこいくのー?」




グループの中の1人がこちらに気づき、「もうほっときなってー」と吉井に言った。





それを背中で聞きながら、教室を出た。