風が、吹いた




「千晶、電話鳴ってるみたいだけど」




話すことに夢中で、カウンターに置いた携帯が震えていることに気付かなかった。




「あれ、誰だろ」




すみません、と頭を下げると、佐伯さんが、いいよ、という仕草をしてくれる。



それを確認して、表示を見ると、心臓がどきんと跳ねた。




通話ボタンを押して、電話に出る。




「もしもし、浅尾?」






「え、今?」




目の前の佐伯さんと目が合うと、にこりと微笑まれた。



にへら、と私も笑い返しながら。




「地元のカフェ」




と答える。




「ん?今から?」




ぱっと腕時計に目をやった。




「うん、大丈夫だよ。うん。何処にいればいい?fruit(フリュイ)ね、わかった」




通話を終わらせると、佐伯さんにー




「すみません、これから会うことになっちゃいました」


と謝って、会計をお願いする。