「まぁ、今すぐにというわけでもないんですよ。」
そう言って、コーヒーを少し、啜る。
「いつごろを予定してるの?」
「引越し費用がかからない時期って知ってます?」
佐伯さんの質問に、質問で返すと、一瞬彼は瞬いて、
「いや、知らないなぁ」
と首を横に振った。
「大晦日です」
にこりと悪戯っぽく微笑んでみせて、私は言う。
「えー、そうなの?なんか逆に高そうなのに。」
「よくはわからないですけど、暇だから、みたいですよ。私の問い合わせた会社では、少なくともそうらしいです。」
「じゃぁ、今は10月入ったところだから、まだもう少し先なんだね。でも、色々荷物も整理しないといけないから、大変でしょう。手伝いは必要かな?」
ううん、と首を小さく振る。
「私の荷物、すごく少ないですから。最初から何もない感じ。」
佐伯さんがはは、と笑った所に、黒いエプロンを着けた若い少年が、伝票を持ってこちらに来た。
「えっと、本日のオススメコーヒーをひとつと、ベルガモットティーをひとつ、どちらもホットでお願いします」
「了解。樋口くん、大分慣れてきたね」
伝票を受け取りながら、佐伯さんがそう言うと、樋口と呼ばれた少年は照れたように、少しはにかむ。
佐伯さんが注文された物を用意する後ろ姿を見つめながら、時間が流れているという事実を、否応なく実感させられていた。


