私が笑ってそう訊くが。
「いや、私の時はひとりだけでしたよ。」
加賀美は、目をぐるりと回してから、答えた。
「エスカレーター式の学校に入って、辞めたり転出したりっていうのは、成績が維持できなくなったり、悪くなったりするとありますけど。それ以外なら、普通はやらないですね。」
「どうして?」
「だって、やりたいことやるなら学校出てからの方が良いわけですから。自分にとっても、有利なんですよ」
椅子にもたれかかって、加賀美が、なんて名前だったっけなぁと呟いた。
「少し前に、噂を聞いたんですよね。どこかの社長令嬢と結婚するとかしないとか。有名な人なんだけど、度忘れしちゃった」
加賀美の呟きに、胸騒ぎを覚えた。
「男の、人、なの?」
動揺のせいで、声が震えた。
「はい。心当たりとか、あるんですか?もしかして、同じ人?」
―あいつは迎えに来ない
「…ううん。なんでもないの」
気がつけば、震えを抑え込むように体を抱えて、何度も首を横に振っていた。


