風が、吹いた


―やりたいことはあっても、できるかどうかは別、でしょ?




ふいに、懐かしい声が、私の耳を掠めた気がした。



「どうしました?」




私の変化にいち早く気づく頼もしい後輩は、首を小さく傾げて覗き込むように尋ねる。




「…ううん。昔、知り合いが言ってた言葉を思い出してね。加賀美とは正反対だったなって」




へぇ、と彼女は呟くと。



「どんな言葉だったんですか?」



挑むように訊いてきた。自分は覆せるとでも言いたげだった。





苦笑しながら、浮かんだ言葉を伝えると、ややあって、加賀美が溜息を漏らした。



「悔しいけど、それは正しいです」




言って、肩を小さく竦ませた。




「でも、努力すれば、大体は叶うはずです。最初から決め付けて、やりたいことを作らないのはどうかと思いますけど」




不服そうに、口を尖らせた。




「その人、親の決めたエスカレーター式の高校は辞めて、公立の高校に来たくらいだったから、本当はやりたいことがあったのかもしれないけどね。」




いただきます、と呟いてから、コーヒーに口を付けると、加賀美が考えるような仕草をした。




「そういえば、そんな人、私も知ってるな。中等部に居たときに噂になってた人が。」




「やっぱり。そういう人、結構いっぱい居るんじゃない?」