風が、吹いた





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「なんか、上の空って感じですね。」




資料の先に、コーヒーのカップをふたつ置いて、向かい合わせに加賀美が座った。




「…そんなことないよ。よくここまでできたなって感心しながら、見てたのよ。私の出る幕ないもの」




慌てて顔を上げると、彼女に心からの感想を述べた。


加賀美尚子は、私の言葉に大きく頭(かぶり)を振った。




「いやいや、倉本さんには敵わないです。論文だってまだまだ穴だらけですし。」




彼女は、いいところのお嬢様なのだが、高飛車な所はひとつもない。



かといってか弱い感じでもなく、長い髪を後ろできゅっとポニーテールにして、背筋をぴんと伸ばしながら、昼夜を問わず実験を行う姿は勇ましささえ、感じさせる。