風が、吹いた


「…上手くいくんじゃないかな。」




やがて顔を上げると、ぼそっと呟やいた。




「…どうしてですか?」




「相手の気持ちが、強いから、かな。そいつはずっとシンデレラのことを見てきてるわけだ。全部を知って、受け入れるわけだろ」




突然、吹いた強めの風に、思わず髪を押さえた。




「それが、悩み?」




「…こないだ絵本を読んであげた姪っ子に訊かれて、考えていただけです。すみません。くだらないこと訊いてしまって。やっぱり忘れてください。」




何気なく見た腕時計に、こんな時間になってしまったのかと申し訳なく思うのと同時に、早くこの場を切り上げたくて頭を下げる。



変に思われているのは、百も承知だからだ。



ちなみに言うと、私に姪なんて居ない。




「それでは、失礼します。」




今度こそ、彼に背中を向けて、出口に足を運ぶ。



その背中に、声が掛かった。




「倉本」



呼ばれた声に、振り向きはせずに、足だけ止まる。




「今の俺の答えには、ひとつだけ、条件があるんだ」




少し、声を張り上げて、彼は言った。










「偶然にせよ、必然にせよ、シンデレラが二度と王子に逢わないことだ。」




それは、真剣さを含んだルールでー



さっきの出任せの理由を、信じていないと、伝えているようでもあった。