「…例えば」
そんな東海林から、私は目を離して、屋上のひび割れたコンクリに目を落とす。
「例えば、お伽話のシンデレラが、王子様とダンスパーティーで会った夜、ガラスの靴を落としてくるのを忘れちゃったとして。」
「魔法が溶けた後、何年待っていても迎えはもちろん来なくて。それをずっと見ていた別の人が、シンデレラのことを好きだと言ったら。」
「シンデレラは王子様とは会えなくても、その人と幸せになれると思います?」
暫く沈黙が流れた。
「…クールビューティーな倉本から、シンデレラというワードが出てくるとは驚いたな」
やがておどけたように、呟いた東海林を見ることなく、
「…ですよね。戯言です。忘れてください」
自分自身でも、呆れたように笑って、屋上を後にしようとした。


