風が、吹いた


あまりのさらっとした物言いに。




「へー、そうなんだ」




頭で言葉を解析できないまま、反射だけで返事をしてしまう。



数秒後、脳の働きが追いつくと、一気に動きが固まった。




「え…今、なんて…」




言いながら、顔がみるみるうちに熱を持ったのがわかった。



そんな私なんてお構いなしに、浅尾はなおも歩き続ける。



火照る顔を隠すように、半ば自棄になって歩き続ければ、もう駅はすぐそこで、改札から明るい光が漏れていた。



やっと立ち止まった浅尾がそこで振り返るから、逆光になって、表情がよく見えない。




「なぁ。倉本、今、好きな奴、居る?」