風が、吹いた









「ごめんね、ご馳走になっちゃって…」




月明かりに照らされながら、駅までの道のりを、2人で歩く。




「いいえー」




数歩先を歩く彼の間延びした返事を聴きながら、吉井から預かったお金を、次会う時に返すの忘れないようにしなくちゃ、と一人言ちた。



生ぬるいような、真夏の時よりは涼しいような、中途半端な風が2人の間を抜けていく。






「ねぇ、なんで、今日、来たの?」





少しのアルコールの力と、浅尾の背中しか見えないこの状況のせいか、余裕が生まれて、訊きたかったことを、口に出してみる。



私の問いに、浅尾は立ち止まることも、振り返ることもせずに、淡々とした口調で答えた。






「会いたかったから」