聞くと、浅尾の勤めている会社は、私の会社から2駅の所で、意外と近い所に居たんだと思った。
「ここ、良い店だな。」
吉井のことや、昔話にひとしきり花を咲かせてからできた、少しの沈黙を破って、浅尾が呟く。
「でしょ。私も気に入ってるんだ」
こじんまりとしたこの店は、大学の先輩に教えてもらった場所で、長いこと通っている。
色あせた朱色の暖簾をくぐると迎えてくれる、人の良いご主人と奥さんの笑顔がたまらなくほっとさせる。
旅館で板前をやっていたという都筑さんの腕前も、確かだ。
「…そろそろ、出るか」
腕時計に目をやった浅尾が言ったので、つられて私も自分の腕に目をやった。
22時。
明日も仕事があるから、そろそろお開きだ。
「そうだね」
と頷いて、席を立った。


