風が、吹いた


残された私は、ただただ唖然とするばかりで、今のこの状況を打開するにはどうすればいいか、脳みそをフル稼働させる。




「吉井に聞いたけど、倉本、今研究職なんだって?」




突出しの枝豆をつまみながら、浅尾が尋ねた。





「…うん…」





かろうじて、返事をする。






「すげーなぁ」





外見が大人びた彼の、声や口調は、当たり前だけど変わっていなくて。



あの頃、昇降口から教室までの短い距離を、一緒に歩きながらした、他愛のない会話を思い出させた。



そのせいか、緊張が少し緩む。




「別にすごくないよ。楽しいから、好きだけど」




目の前の汲み出し豆腐を箸でつつきながら、呟いた。





「浅尾は?…今何やってるの?」





店員がビールを持ってきて、浅尾に渡すのを横目で見ながら、尋ねた。





「俺?俺はしがないエンジニア」




そう言って、にやりと笑うと、ジョッキを軽く掲げてから、口をつけた。