「私にも、久しぶりでしょーが」
隣で、浅尾の頭を躊躇いなく小突く吉井に、最早尊敬の念さえ覚える。
「ってぇな」
恨めしげに睨む浅尾に怯むことなく、胸を張る。
「私が呼んで差し上げたのに、その態度はないんじゃなくて?」
ふふ、と不適に笑む彼女は、悪の女王以外例えようがない。
「…悪かったよ。ありがとな」
やけに素直に謝る浅尾も、気味が悪い。
その2人が同時にこちらを向いた。
ひっ、と思わず息を呑んでしまった。
「くらもっちゃん…その化け物でも見るかのような顔、何?」
だって、恐いんです。2人とも。
とは言えない、小心者な私。
暫く怪訝な顔で、私を見つめる吉井が、突然、立ち上がった。
「あ…いけない。私用事思い出しちゃった。先帰るね」
大分わざとらしい感じで、吉井が浅尾の前をごめんねーと通り抜ける。
その足取りは、少し、頼りないが、持ち直しつつあるようだった。
「え、じゃ、私も…」
「いやいやいや、くらもっちゃん。それはない。それはないよ。」
よくわからない説得をされ、立ち上がりかけた体を元に戻された。
頭の中で、浅尾と2人きりなんてあり得ないという考えだけが、ぐるぐる回っている。
「これ、私の分。じゃ」
そう言ってお札をテーブルにぽんと置くと、颯爽と店を後にした。


