風が、吹いた


「あ、浅尾…」




驚き過ぎて、挨拶の言葉も出てこない。



彼と最後に言葉を交わしたのは、卒業式の日。吉井と違って、浅尾とはクラスが一緒だったのは1年の時だけだった。


椎名先輩とのことがあってから、浅尾とは、ぎくしゃくしてしまった。


告白の返事もしないまま、クラスが替わって、廊下ですれ違っても、私自身が避けていたせいか、話すこともなく、卒業式の日に、ついに声を掛けられた。





―『俺、いくらでも、待つから。』




そう言ってくれる彼の優しさに、もう、諦めて欲しいと頭を下げた。




―『私は、やっぱり、誰も好きになれないよ。』




『ごめんなさい。』



それっきり。彼に会うどころか、連絡を取ったことも、来たことも、なかった。


会うことも、もうないと思っていた。





「ま、こっち座りなよ」



驚きのあまり固まる私をよそに、吉井が浅尾に自分の隣を勧めた。


そのせいで、私と浅尾は向かい合わせになる。




気まず過ぎる。




気持ち良い程度の酔いも、一瞬で吹っ飛んだ。



「生、ひとつ」


そんな私の心中を察する気もない浅尾は、店員に手を上げて注文する。




店員が返事をして、背を向けると。




「…久しぶり、だな」




浅尾が、こちらを見て、笑った。