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「恋よ、恋」
ガン、とテーブルにビールジョッキを打ち付けて、吉井が言った。
「恋の忘れ方は、新しい恋をするほかないのよ!」
勝ち誇ったようにそう言うと、ぐびぐびと、一気にビールを喉に流し込む。
時刻は20時30分。場所は会社と家の、ちょうど真ん中に位置する居酒屋『都筑』。
かなりの急ピッチで、吉井は酒を煽る。
毎度の事だから、もう慣れた。
「恋…ねぇ…」
私は吉井の言葉を繰り返しながら、ジョッキについた水滴を、指で掬う。
私の中で、その言葉は、苦しくて、切ない。
「あ、そーだった。忘れるところだった。今から、あいつ、来るから」
完璧に据わっている目で、突然吉井が言い放つ。
「え、誰?あいつって…」
吉井は、この近くの出版社に勤めている。高校3年間、クラスが離れることなく、必然的に仲は深まった。
卒業後も、頻繁に連絡を取り合って(というか一方的に連絡が来る)会っているが、大体は今日みたいに都筑で2人、飲み明かすことが多い。
他の誰かを、呼んだことは、記憶違いじゃなければ、ない。
「だから、あ・い・つ!」
その上、今日の吉井はいつもより、酔いが回っている。
仕事の時間がかなり不規則らしいので、疲れているのかもしれない。
それなら、尚更なんで今日、私を誘ってきたのか。
ー考えても仕方ない。
浮かんだ疑問を、すぐに打ち消す。
突拍子がないのは、いつものことだったからだ。


