風が、吹いた



「私、もうすぐ結婚するわ」



軽く頭を下げて、エレベーターから降りると、私の背中に、松下が言った。




思わず振り返って、彼女を見る。


「あなたも、もう忘れた方がいい」



切なそうに私の目を見て、そう言った。



私が何か言葉を発する前に、エレベーターの扉が閉まる。


言いかけた言葉を、喉につっかえながら、なんとか飲み込んで、俯いた。





―どうすれば、忘れられるでしょうか。





きっと、誰にも、答えられないだろうから。