実験室から出て行く後ろ姿を、
「あ、じゃぁ俺も…」
と言って、追いかけようとするも、入れ違いに入ってきた田邊にー
「東海林君。これ、追加で。今日中にこの実験のデータ、なんとかしてほしいんだけど」
にっこりと、悪魔の笑顔で、一枚の紙を渡される。
受け取って、思わず、えっ、と耳を疑った。
「これ、今日中…ですか…?」
研究室の長は、益々笑みを深くした。
「僕のこと、倉本くんを呼び戻すだしに使った仕返し」
うわぁ、と頭を抱えた。
「武さん、千晶ちゃんにはストレートにいかないと、単なる嫌がらせとしか思われないですよ。飲みの誘いはオヤジ臭いし」
くくくと笑う川村の、面白半分の慰めが、痛い。
東海林は、諦めたように宙を仰ぐと、深く溜め息をついて、近くのパイプ椅子にどかっと腰を下ろす。
「ストレートでも、カーブでも、あいつは駄目だよ。いつも心がどっかに行ってる気がする。」
特に、空を見ている時は、な。と心の中で付け足した。
「それって、誰かに持ってかれてるってこと?」
川村の質問に、東海林は何も言わなかった。


