風が、吹いた


自分のアパートに着いて、階段を上ると、見慣れた人影がふたつ、家の前にいるのが見えた。



カン、カン、という音に、その2人が振り返る。




「…くらもっちゃん…」




彼女は私を呼ぶと、階段を上がりきった所で、立ち止まっている私に駆け寄った。




「吉井…」




きっと、式の途中でいなくなった私を、心配してきてくれたのだろう。



それでも、今回ばかりは、素直に喜ぶことが出来なかった。




「…なんで、来たの?」




自分から発せられた言葉は、私の思いのように、暗くて、重かった。





「…倉本のことが、心配だったからだろ」



黙り込んだ吉井の代わりに、私の家の前に立ったままこちらを見ていた浅尾が、静かな声で言った。




「余計なお節介だよ…」




冷え切った言葉は、自分自身の身も切るようだ。





「くらもっちゃん…」





痛そうに、吉井がまた、私の名前を呼んだ。





「それはねーだろ、倉本」




浅尾の容赦ない言葉が、私の感情を逆撫でする。