風が、吹いた


小雨がまだ降りしきる中、家を出ると、顔をあげた先に、あの庭が視界に入った。



ゆっくりと近づいて、その場にしゃがみこむ。



もう、何もないその場所に、咲いていた花は、なんと言ったか。




―本来の、とか、最初っていう意味があるんだ。




―今の千晶にぴったりの花だね。




―友達になってくれますか?




私のもらった花は、もう咲かない。





「…『最初』に戻れたら良いのに」




叶うことのない願いごとを、無意識に呟いていた。







時刻は昼をまわっていた。


学校に戻るには、遅すぎる。下校時刻はとっくに過ぎていたからだ。



今更戻る気もしない。



家に帰ろう。



制服は乾かしてもらったはずなのに、足取りは雨に濡れた時のまま、いやそれ以上に重かった。



家まで続く道は、どれも、彼と一緒に並んだ道だから。



いやがおうにも、切ない想いを湧き上がらせる。



忘れることなんて、どうしてできるだろう。



帰ってこないと、決め付けることなんて、どうすればできるだろう。




―こんなにも。



こんなにも、胸が苦しいのに。