風が、吹いた


「自分から、周囲と線を引いているというところが…」



あぁ、そんな子うちの店にも居るなぁと、思ったけれど、目の前の彼はとてもそうは見えなかった。


それを伝えると、彼は自嘲気味に、



「俺は、外ではかなり強烈に線を引いてるんです。」



と答える。関わってもいずれ消える人間だから、と呟いたのを聞き逃さなかった。



目の前の、少年の担う痛みが、垣間見えたようで、自分の胸も痛んだ。




「…それで、その子がどういう関係で、あの家に繋がるのかな?」




すっかり冷えてしまったコーヒーに視線を落としながら、尋ねる。




「…バイトに行く時にたまに見かけることがあって。よく、森の前の信号で、止まって、家を見てるんです。そのときだけ、楽しそうに。」



他のものには目もくれない、けれど寂しげな彼女が、唯一頬を緩ませて見ている。




きっと彼女の大切な場所だから。



彼女と接点がなくても、彼女が自分を知らなくても。



自分が、その場所に、居れたら。



単純で、まるで恋を初めて知った子供のように語るこの理由が、大人からしてみれば、馬鹿馬鹿しいと笑われるものであっても。



許されるのなら。


その小さな繋がりだけでも、欲しいのだと、彼は言った。