風が、吹いた




式が卒業証書授与に進み、次々と卒業生の名前が呼ばれていく。



耳だけ澄ませて、手を合わせてぎゅっと握り締めた。








『椎名 孝一、本日欠席です』









地面にちゃんと足が着いているのかも、わからない。


限界だった。




「倉本!?」




驚いたような小澤の声と、生徒の動揺した声は、私の耳には届かなかった。



気がついたら、体育館を飛び出して、あの家に向かって、走っていた。





もしかして具合が悪くなったのかもしれない。



昨日屋上で、寒かったから。



だって、彼は言ったもの。



―また、明日ねって。




変わらない笑顔で、



そう言った。



いつも通りだった。



ねぇ、そうだよね?