風が、吹いた














確かに、ひとりひとり、見た筈だった。



でも、もしかしたら、違うところを見ていた間に、通り過ぎちゃったのかも。



見逃しちゃったのかも。



だけど、静かになった筈の会場に、ざわめきが起こっている。




「椎名先輩、居なくない?」




口々に、誰かがそう言っているのが聴こえる。




『在校生、静かにしなさい!』




異例のアナウンスが、体育館に響いた。






あ、そうだ。



椎名先輩は、卒業生代表で、挨拶するから、先に会場入りしてたのかもしれない。



そうそう、きっと、今すぐに、そこでお辞儀して、でてくる。



半ば祈るように、睨むように、舞台を見つめるが、



呼ばれた代表は、期待した人ではなかった。




―違う違う




周囲の目など気にも留めずに、首を振った。



名前を呼ばれたら、きっとどこかで返事をする。



怖くて、もう舞台を見つめることができなかった。