風が、吹いた



「そろそろ、帰ろうか」




薄暗くなってきてしまった屋上で、彼が言った。



確かに彼は時間をくれて、さっきの要求は忘れたかのように、一緒にグランドを見たり、屋上をぶらぶら歩いたり、いつものように話していた。




―い、言わなきゃ…




そう思うと、心臓がドッドッと飛び出てしまいそうなくらいに喧(やかま)しくなる。



繋がれた手が向かうまま、屋上のドアの前まで来た所で、彼が手を放した。



向かい合う形になって、目と目が合う。




「時間切れ」




私の大好きな笑顔で、彼が言った。





人に、想いを伝えるって、こんなに緊張するものなんだ…



寒い筈の屋上で、私は冷や汗を感じる。



目の前には、大好きな人。


そういえば、熱で浮された時以外で、彼に想いを伝えたことがなかったことに気づく。




「わ、私…」




からからになった喉から搾り出す声はか細い。




「私…は…」




先輩の優しい目に勇気をもらえる気がするけど、見つめることができずに、ぎゅっと目を瞑った。







「…孝一が好きです」