風が、吹いた


「…え?」




先輩の顔が、赤く見えるのは、夕陽のせいだろうか。



「しょうがないだろ。目の前に好きな子がいたから、どうにかして、俺に気づいて欲しかったんだよ」




掴んでないほうの手で口を覆って、彼は目を逸らした。




私も、一緒に火照らせた顔を下に向けた。




そんな頃から、私のことを、好きで居てくれたという事実が、嬉しくて仕方なかった。




「あー、俺ばっかり好きな気がする。」




拗ねたように言って、視線を戻した彼が、私の顔を上に向かせる。




「千晶から、ちゃんと聞いてない」




目を細めて、




「言って」




意地悪く笑った。






「う…えっと……そんな、急には…」




今度は私が顔を真っ赤にさせて狼狽える番だった。




「お願い、言って」




彼はじりじりと顔を寄せて、私を追い込む。




「こ、心の準備が……」




なおも拒む私に、彼は更にハードルを高くした。




「わかった。名前で呼んでくれるなら、少し時間あげるから。」




陽が、もうすぐ、落ちてしまう。