風が、吹いた



深みを増す朱い空。



背中に感じる体温が、心をざわつかせる。




「先輩………?」




沈黙に耐えかねて、後ろを向くと、ぱっと顔を上げた彼が、いつもの笑顔で笑った。




「俺の特等席、きれーでしょ。」




得意げに胸を張る。




「うん。」




頷きながら、空と同じ色に染まる彼の髪に、思わず手を伸ばした。





「私、先輩の髪、好きだなぁ。きれいで」




先輩は一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐに切なげに笑った。



さらさらとした髪は、掬おうとしても、すぐに手からこぼれてしまう。




「それにしても先輩、こんなところから、上履き脱げるなんて」




彼の前髪を額から耳にかけて流しながら、私がくすくす笑うと、髪を触る手首を、ふいにきゅっと掴まれた。



必然的に、動きが止まり、視線が絡み合う。




「わざと、だったんだ」