風が、吹いた



「覚えてる?」




椎名先輩が、にやりとした笑いを浮かべて、こっちを見ている。




「覚えてるよ」




私も、にやりと笑ってみせた。



タンタンと音をたてて、梯子を降りると、彼は靴を履きなおして、




「千晶も上ってみる?」




自分の特等席を指差した。


私が頷くと、先輩が先に梯子を上って、私に手を差し出した。




「おいで」




言われるまま、途中まで上って先輩の手を取ると、上にグンと引っ張られて、抱き上げられた。






「わ…すご」




先輩の特等席からの眺めは、屋上のそれより、ずっと遠くまで見えて、綺麗だった。



けれど。




「先輩?」




抱き上げられたまま、抱き締められた事の方に、動揺してしまって、景色どころではなかった。




「座って」




その言葉と同時に、ひょいっと前を向かされて座らされた。



先輩の頭が、背中にコツンと当たったのが、わかった。