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あっという間に卒業式を目前に控えた木曜日。
誰も居なくなった教室を、静かに出て、もう懐かしいと思うほどの、階段を上る。
1人で通い慣れた、屋上へ続く踊り場への道は、ほんの数ヶ月前まで見せていたものと当たり前のように同じで、色褪せた緑だった。
―あの日から、ここへ来ることはなくなった。
躊躇うことなくその先へ、足を進める。
あの日のように、屋上の入り口の錆びたドアの隙間から、風が階段を下りてきている。
違うのは、その風の冷たさから、すっかり秋が消えていることだ。
「なんで、開けっ放しなんだろうね?」
以前のことを思い出して、苦笑しながら呟いて、ドアノブを引いた。
今度は、額をぶつけないように、慎重に。
扉の向こうに広がる、空が、朱(あか)かった。
その美しさに見とれて、屋上の真ん中辺りで、立ち止まっていると、
空から上履きが、降ってきた。
ぽたり、と落ちた上履きを目で追った後で、貯水槽の上に居る犯人に目をやった。


